『C級サラリーマン講座』に学ぶ建築~東京都庁舎・つくばセンタービルへの疑問 〔引っ越し掲載〕

〔(建築家+建築屋)÷2 のブログ 第7回〕
  小学館から月2回発行されている漫画雑誌『ビッグコミック』に掲載されている山科けいすけ氏の漫画『C級サラリーマン講座』は実におもしろい。 2010年8月25日号で第477回というだけあって、このネタは前にも見たぞ、というもの、これは今ひとつ、というものも時々ありますが、たとえ、それにしてもおもしろい。 特に、最近は、時々、建築を題材にした話が出てきますが、「大家」「先輩」「ビッグネーム」に気兼ねしてヨイショしているのかと思われるような「建築家」の文章よりも、むしろ、鋭いところをついている話があり、うならされる時があります。

  しかし、2010年8月25日号(8月10日発行)の第477回の2番目の4コマ漫画「想像力」という話については私は賞賛はいたしません。 ビルの自動ドアから来客が入ってくる時に、蝉が入り込み、玄関フロアの吹き抜けの上部にとまって、大音量で「み~ん み~ん」と鳴き、うるさくてかなわないので、従業員が虫取り網でつかまえて外に出そうとするものの、高くて届かず、蝉の大きな鳴き声に困らされる・・・という可能性を考え、玄関フロアの吹き抜けはやめました、と語る設計者の話を聞いて、「なんで新社屋の設計をこんな奴に依頼した・・・!?」と社長なのか経営者風の男が不機嫌に言う、という話です。 蝉だけを考えて建てるべきだということではありませんが、吹き抜けを設けるかどうか考えるにおいては、蝉が入り込んで吹き抜けの上部にとまって大音量で鳴いて・・ということになったらどうするか・・・・といったことも考慮して考えるべきであって、そういう可能性を考えた上で吹き抜けはとりやめようと考えたという設計者は良心的で、むしろ、意匠・デザインだけしか考えずに、蝉が高い場所にとまって大音量で鳴いて困った時にはどうするか・・・など少しも考えない「建築家」の方が問題があるように私は思うのです。

  下の写真は、「世界の丹下と言われる」らしい丹下健三(1913-2005)が設計したという「東京都庁舎」(1990)(東京都新宿区)の第二本庁舎2階にある新宿運転免許更新センターの写真です。この写真を撮影する直前は、もっと混雑していて、通路に人が何人も立ち並んでいました。東京都庁舎は、建築当時から、費用がかかりすぎる建物として批判もされていた建物ですが、その割に、運転免許センターに来場した人が待つスペースがなく、通路に人があふれるのです。その前が大きな吹き抜けなのですが、この吹き抜けを少し小さくすれば、免許センターに来場した人に座って待つスペースを提供できるはずです。かつ、この写真を撮影した場所(2階、吹き抜けをはさんだ逆側)から、この免許センターに行こうとすると、吹き抜けが大きい為に、ずいぶんと遠回りしなければ行くことができず、不便です。「意匠設計」担当の「建築家」丹下健三先生の好みのデザインなのかもしれませんが、その為に都民が不便をこうむっても、「世界の丹下」の為なら我慢しろ、ということでしょうか。丹下健三大先生にそういう意識はなかったかもしれませんが、現実にできている建物がそうなっているのです。

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  東京都庁舎は、一般的な建物に比べて凹凸や装飾が多い為に、メンテナンスと清掃の費用が3倍かかると、たしか、朝日新聞に掲載されていました。東京都に問い合わせると、都民に負担をかけない為に、メンテナンスと清掃を一般的な建物の3分の1にしている、という返答であったというのです。(残念ながら、その新聞が、今、手元にない為、何年何月何日の朝刊・夕刊ということを表記できません。) しかし、都庁舎のメンテナンスと清掃の費用が一般的な建物の3倍かかるから、頻度を一般的な建物の3分の1にしている、というのであれば、東京都庁舎は、メンテナンスと清掃を必要な頻度の3分の1しかおこなっていないということなのか、特に、必要なメンテナンスを3分の2省略しているということなんか、それとも、東京都は、都庁舎以外の一般的な建物においては、メンテナンスや清掃を必要とされる3倍おこなっている、無駄な清掃とメンテナンスに必要量の2倍の費用をかけている、ということなのか・・・ということになってしまいます。

  それより、問題が多いのは、高層階における清掃・メンテナンスにおいて、特に、外部については、都庁舎のような凹凸や装飾が過多の建物でなければ、屋上からゴンドラをつるして作業をおこなうことができるとしても、都庁舎のような建物では、相当に難しいと思われ、たとえ、費用をかけるとしても、清掃・メンテナンスをおこなう人間の安全は確保されるのか・・・という問題があります。「世界の丹下」の命の価値ととび職や清掃夫のオッサンの命の価値は同じではないとでも思っているのでしょうか? 丹下先生にそういう気持ちはなかったとしても、現実の建物を見ると、そういう意識でもあるのか、と考えたくなる建物なのです。

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              ↑ 東京都庁舎(1992)  丹下健三

  また、下は、「世界的建築家」磯崎新(いそざき あらた)(1931- )が設計したという 「つくばセンタービル」(1983)(茨城県つくば市)の「フォーラム」という屋外広場にあるオブジェですが、木や草の形に作った金属製のオブジェの先が、ちょうど、子供の目の高さあたりにきており、大変、危険です。 私たち建築屋がこういう工事をおこなったとすれば、欠陥工事・欠陥建築とされるところで、評判を落として以後の仕事がしにくくなるものですが、「世界的建築家」がやると「名作」と評価されて、たとえば、佐藤考一『新版 建築基礎講座 2級建築士 学科1 建築計画』(2008.市ヶ谷出版社)でも、「1.7. 建築史」のところに, つくばセンタービルは登場します。

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              ↑ つくばセンタービル(1983) 磯崎新
 
  つくばセンタービルは、他にも危険な個所が大変多く、あまり子供を遊ばせたくない、年寄をつれていきたくない建物ですが、意匠の面については、私も参考にさせていただいたところもあり、すべてについて否定しようという考えはありません。 しかし、安全面だけでなく、つくばセンタービル内の商店街「アイアイモール」は、半分がシャッター閉めの空き店舗となっており、つくばエクスプレスが開通し、すぐ前に「つくば」駅ができた後、それまでなかった店舗・店舗ビルが周囲にできてきているにもかかわらず、「普通の人」が設計した「普通の建物」では、商店が増えていて商売が成り立っているにもかかわらず、「世界的建築家」磯崎新の・2級建築士学科試験にも出題予想されている「つくばセンタービル」では空き店舗が、むしろ、かつてより増えているという現実は、いかに「世界的建築家」と声高に叫んでも無視できないものと思われます。

  「建築家」と言われる人たちの建物がすべてだめだということではありません。上野公園の中にある、前川國男(1905-1986)が設計したという「東京文化会館」(1961)、「東京都美術館」(1975)(いずれも、東京都台東区)を見学しましたが、東京文化会館では、コンクリートで作られている縦に棒状に並べられている意匠に、なんと、「面取り」がなされています。 
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             ↑ 東京文化会館(1961)   前川國男

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            ↑  東京文化会館の 面取りがされている
               コンクリートの縦の棒状の意匠

  又、つくばセンタービルでは、屋外で、わざわざ、子供の顔か眼くらいの高さに設置されている照明器具があったのに対して、東京都美術館では、相当高めの大人の男性でも頭があたらないくらいの高さに屋外の照明器具が設置されており、建築屋としては、そういう配慮をされた建物を見るとうれしくなります。

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             ↑ 東京都美術館(1975)   前川國男

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 ↑  相当高めの身長の大人でも頭をぶつけない高さに設置されていて、かつ、壁のタイルと同色に塗装されている、東京都美術館の屋外照明

  東京文化会館や東京都美術館のような細かいところへの配慮を見ると、建築屋としては、なんともうれしくなりますが、逆に、つくばセンタービルのような、傍若無人な建築を見ると、これを「世界的建築家が設計した」とかなんとか言ってありがたがらせようというのか・・・・と、気が重くなります。

  丹下健三大先生にも磯崎新先生にも、私は直接お会いしたこともなければ、個人的に恩も恨みもありませんが、しかし、実際問題として、私は、前川國男の東京文化会館や東京都美術館の方が好きです。東京文化会館は、建設されてから50年近く経つこともあり、大ホールの上の方の席に行こうとした時、エレベーターもエスカレーターもないという問題はありますが、演奏会を終わった後、一時に人が出入り口からあふれ出た時にも安全なように玄関前のコンクリートの柱は丸みを帯びた形状につくられており、細かい部分にまで「面取り」がされた同館での配慮を見ると、頭が下がる思いがいたします。

  『C級サラリーマン講座』の「想像力」という4コマ漫画ですが、蝉が入ってきて吹き抜けの上部にとまって「み~ん み~ん」と大音量で鳴き、それをつかまえて外に出そうとしても高くて届かず・・・といった場合にどうしようか・・・といったことも考えた上で設計をおこなう設計者にこそ依頼したいもので、そういうことを、まったく、考えない、デザインが自分の好みにあっているかどうかしか考えない「建築家」に依頼したケースについてこそ「なんで 設計をこんな奴に依頼した・・・!?」と苦情を言われるべきではないかと思います。

  丹下健三大先生については、国立代々木屋内総合競技場などで、その時代においては、最新の技術を使用したといった功績が評価されているようであり、磯崎新先生の つくばセンタービルについては、私自身が参考にさせていただいた部分もあり、すべてを否定しようという考えではありませんが、たとえ、そうであっても、上記の問題点もまた、否定しかねるものです。 すでに他界された「世界の丹下」大先生はともかく、もしも、磯崎新先生が、このブログをご覧になることがあり、そして、もしも、何をぬかすか、と腹を立てられるなら、もし、お孫さんでもおられたら、一度、つくばセンタービルに連れて行ってみて考えていただきたいと思います。大変、危険です。小学校就学前の子供は、一瞬でも子供だけで放置できない建物です。おそらく「なんで 設計をこんな奴に依頼した・・・!?」と御自分で言いたくなると思います。

 なお、・・・・
山科けいすけ 氏については、
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E7%A7%91%E3%81%91%E3%81%84%E3%81%99%E3%81%91
丹下健三 については、
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%B9%E4%B8%8B%E5%81%A5%E4%B8%89
磯崎新 については、
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%AF%E5%B4%8E%E6%96%B0
前川國男 については、
  http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%8D%E5%B7%9D%E5%9C%8B%E7%94%B7
  他をご参照ください。

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以上は、「私が勤務する建築会社のホームページとリンクした私のブログ」に掲載した、そのブログの第7回のもので、この第7回≪『C級サラリーマン講座』に学ぶ建築~東京都庁舎・つくばセンタービルへの疑問≫は、2010年(平22年)8月に「公開」させていただいたものです。 事情により削除いたしましたが、私は、削除したものは内容のあるものと思っており、又、いったん、「公開」したものは、作成者のみのものではなく、賛否にかかわらず、読んでくださった方・読みたいと考えてくださる方と共有のものという性質をもっており、作成者といえども、「記憶違い」のものの訂正、補足、「入力ミス」の訂正などは良いと思いますが、完全な削除は、好ましくないと考え、ここに、「引っ越し掲載」させていただきます。(建築家+建築屋)÷2 〔より正確には (49×建築家 + 51×建築屋)÷100〕 のブログ 、もしくは、。(建築家+建築屋)÷2のブログ と記したものは、「引っ越し掲載」です。 よろしくお願いいたします。
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 〔 この稿は、「哲建ルンバ」としては、第9回ということになります。 〕


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